Monday, December 2, 2013

ITが変わる、医師が変わる

ITが変わる、医師が変わる 医療のICT化、“周回遅れ” - 平井たくや・自民党IT戦特命委員長に聞く◆Vol.1 「EHR連携基盤」で医療情報を利活用 2013年7月16日 聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)  m3.comはこの7月、2003年7月のスタートから10周年を迎える。この間、医療におけるITの活用は、テクノロジーの進歩、インターネットの普及と呼応する形で、飛躍的に広がり、医療、そして医師の仕事に革新をもたらした。では今後、医療ITはどんな方向に向かい、医師の仕事をどのように変えていくのか――。  m3.comでは今夏、「m3.com 10周年スペシャル企画」として、「ITが変わる、医師が変わる」というテーマで、連載企画をお届けする。そのトップバッターとして、ご登場いただくのは、自民党IT戦特命委員長で、衆議院議員の平井たくや氏。このほど「デジタル・日本2013―ICTで、日本を取り戻す。―」をまとめ、自民党のIT戦略のキーパーソンである平井氏に、医療ITの現状と将来像についてお聞きした(2013年6月28日にインタビュー。計2回の連載)。 ________________________________________ ――先生は長年、IT政策にかかわっておられます。この5月にまとめた「デジタル・日本2013―ICTで、日本を取り戻す。―」は、政府が6月14日に閣議決定した「世界最先端IT 国家創造宣言」のベースになっています。ICT化を進める重点6分野の一つとして、掲げられているのが医療。医療ITの現状をどう捉えておられるのでしょうか。  日本のICT化は、諸外国と比較して“周回遅れ”だと思います。今は、「第3次産業革命」が進行しています。第1次は1760年代からの蒸気機関発明に伴う産業の発展、第2次が1850年代から電気・石油などのエネルギー使用に伴う産業の発展、そして第3次が1980年代以降のコンピューターの活用に伴う産業革命です。  この10年くらいを見ても、モバイルの通信速度は格段に向上した。2001年にNTTドコモが開発した3G回線の理論最大受信速度は、384kbps。最新のLTEは326Mbpsで、約850倍。赤ちゃんの「ハイハイ」(時速1km)レベルから、ジャンボジェット(時速900km)並みになったわけです。  「産業革命」により、社会が新しいステージに移行すれば、国民の暮らしは良くなるはず。では、医療はどうか。高齢化が進み、2025年には全人口に占める高齢者の割合は3割を超え、医療費も50兆円規模になると推計されています。しかし、ドイツ、フランス、オランダとの比較でも、EHR(electronic health record)、生涯の電子カルテ、投薬情報の管理、診療報酬請求のいずれの面でも、日本の医療におけるICT活用は遅れています。 ――医療のIT化が遅れている理由は何だとお考えですか。  やはり組織の縦割りが理由でしょう。これだけインフラが整備されている国なのに、インターネットの利活用という意味ではまだまだ不十分。例えば、電子カルテは普及していても、医療機関同士の連携に乏しく、個別最適になっている。医療の質の向上、あるいは医療費の適正化に、もっとICTを使うべきだと思う。 ――各医療機関単位でのICT化は進んでいても、横の連携が遅れている。  そう。医療機関間だけでなく、介護や福祉、保健などとの連携も不十分。相互に関連する分野では、ネットワークを構築しないと、ICT化の本当のメリットが発揮されません。 ――医療の質と、医療費に言及されましたが、両方ともITで改善が図れるとお考えですか。  その通りです。今回の報告書を取りまとめるに当たり、ヒアリングした中で、興味深かった一つが、米ニューヨーク市のPCIP(Primary Care Information Project)の例。クラウド型の電子カルテを作り、市内の医療機関に無料で配布し、その代わりに医療情報を収集する。そのデータを分析して、糖尿病のリスクがある市民に生活指導したりすることを通じて、医療費の削減を目指しています。PCIPでは、医師や医療機関単位での治療成績の評価も可能であり、患者にとっても受診予約や自分の治療履歴などを追うことができるなど、さまざまなメリットがあります。 ――そうした取り組みを進めていく上で、先生方が一番重視しているのは、「EHRの連携基盤」の構築。  はい。患者・国民中心の「公的EHRインフラ」が必要。これは医療機関のためのEHRではなく、国民や産業が利用する公的インフラという意味です。  全医療機関の診療情報、レセプト情報、特定健診データなどを集め、医療情報を「集合知」化する。患者にとっては、自分の医療情報をいつでも見ることができるようになる。個々の医師や医療機関の質を評価しながら、選べるようになる。有効な治療法や研究成果があれば、医師にフィードバックする。保険者にとっては、重複検査や重複投薬を防いだり、医療給付の分析ができる。さらには、「EHR連携基盤」があれば、医療情報を2次活用して、創薬などの産業促進にもつなげることが可能です。 ――個々人が自分の情報を使えることと、それを統計情報、ビックデータとして活用することの両方を進めていく。  そうです。ビックデータの分析は当然必要です。その成果を最終的に個人にフィードバックできればいいわけです。医療分野のICT化には今、ものすごいビジネスチャンスがある。 ――「EHR連携基盤」の前提となるのが、マイナンバー。  マイナンバーを導入するに当たって、「医療ID」(医療分野のマイナンバー)を別に作ることには、私自身は反対の立場です(編集部注:今国会で成立した、いわゆるマイナンバー法による「個人番号」は、行政手続きで使用するものであり、医療情報等での使用は今後の検討課題)。マイナンバーを普及させなくてはいけないのに、今のままではメリットが見えにくい。国民の側からすれば、これだけ高齢社会になり、医療情報などを考えた時に、やはり「自分の健康にかかわる部分」でのメリットを享受したいと考えるでしょう。

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